イーブーの観察日記

ハゼを中心とした雑多な記録です

ニライカナイからの旅人

 ニライカナイとは琉球列島各地に伝わる伝説の地。そんな伝説の地をその名に冠するハゼがいます。ニライカナイボウズハゼ Stiphodon niraikanaiensis です。このハゼは5年前の2013年に記載されたハゼで、現時点では沖縄島でしか見つかっていないとされています。海の彼方に未知の生息地があり、そこから海流に乗って稚魚が沖縄島に流れついた可能性が示唆されています。この海の彼方にあるであろう未知の生息地をニライカナイになぞらえてこの名が付いたそうです。

 私はこのロマン溢れるハゼのことを去年知りました。見た目・名前・謎に満ちた生態、このハゼの全てが私の心を強く惹きつけました。この日以来ニライカナイボウズハゼは私にとっての究極的な目標となりました。けれども当時の私は、ニライカナイはおろかコンテリボウズハゼすら見たことがないお粗末な戦闘力でした。ニライカナイを見るなんて夢のまた夢。

 ニライカナイを見つけるべく私の長い闘いは始まりました。第一の壁であったコンテリは案外すんなり倒せましたが、その先の壁があまりにも厚い。ハヤセ・ヒスイ・トラフ・ニライカナイ、沖縄島のスティフォドン四天王は手厳しい。いくら探してもその尻尾すら掴めませんでした。

 しかし、壁が崩れる時は不意に訪れました。11月の初旬にメスではありますが漸くハヤセボウズハゼを見つけることができました。そしてその約1週間後、遂に憧れのあのハゼとの出会いの瞬間がやってきました。

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ニライカナイボウズハゼ 感無量

 本やネットで見たあのハゼが目の前に。死後ニライカナイに行かなければ見れないと思っていたあのハゼが目の前に。ニライカナイボウズハゼは伝説の地の生き物などではなく、確かにこの世界に生きていました。

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食事中 Youtubeで見た光景が現実のものに

  頭部は青く煌めき、第二背鰭と尾鰭は茶色・青・オレンジという独特の色使い。この美しいハゼをデザインした自然界に惜しみない拍手を送りたいです。胸鰭の白い点列模様もいいです。光を浴びてキラキラと輝いていました。この個体はサービス精神旺盛で何枚も写真を撮らせてくれました。ありがとう。

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鰭を広げた瞬間 若干ピントが…

 このハゼは遠く海の彼方から遥々旅をしてこの島にたどり着き、私の目の前に現れてくれました。嘗ての沖縄島の自然の豊かさについて話を聞くと、もっと早く生まれて人の手が入る前の姿を見てみたかったと思うことがあります。しかしこの出会いは今この瞬間に私とこの個体が生きていたからこそ起こったのであり、これ以外のタイミングでは起こり得なかったことでしょう。今を生きるという事にこれ程深い感謝の念を抱いたのは初めてかもしれません。

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ニライカナイから険しい旅路を辿ってきたとは思えぬあどけない顔

 決して越えられないと思っていた壁のてっぺんが見えつつあります。沖縄島で記録のあるナンヨウボウズハゼ属は6種。私が見たのはこのニライカナイボウズハゼで4種目です。(実は最近5種目も見たのですがそれについては別の機会に書こうかと思います。) すべての壁を越えた先には何があるのでしょうか。これからもまだ見ぬハゼを追い求めていきたいです。